第542回 友里が考える「客が納得する店」とは その6悲惨な現状をみると、この本を読んでいなかったからか

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  • 2005年2月2日(水)
先日、本屋で料理関係の本を物色していたら、
面白い本を見つけました。
「流行る店」(吉野信吾著 日経BP社)というもので、
著者はマガジンハウス社の元編集者。
現在は飲食店の「設計・プロデュース」をしている人が、
原価率や経営上の数値が羅列されている
巷のハウツー本とは違った観点で書いた素人にも読みやすい本です。

マスメディアとの付き合い方、
客側、店側にたった心理からの集客戦略など
実例を挙げながらの記述で、
あっという間に読み終えてしまいます。
女性客を重視するかしないか、といった点で
私と考えが異なるだけで、(本では女性客重視が店を潰すとある)
後はだいたい納得する、なるほどと思うもの。
特にマスコミに取り上げられたシェフに、
有頂天になるな、「有名人気分」に陥るな、というくだりは
私とまったく同じ。笑っちゃいました。

そして、店を開くのにむいていない立地の一つとして、
堂々と、複合商業施設のテナント物件と
家賃の坪単価が3万円を超える物件というのを挙げていました。
施設の集客力が落ちると店はその運命と道連れになる。
売れたら売れたで、
売り上げからいくらかのパーセンテージでピンはねされる。
設備工事も指定業者を使わされるので割高、と
再開発ビルに真っ向問題提示する人が友里以外にいたと知り、
心強く感じました。

この本は昨年3月に出版されました。
現在六本木ヒルズの悲惨な集客状況で苦しんでいる
「パ マル」の高橋シェフには間に合わなかった、
交詢ビルの「かつぜん」や「逸喜優」も既に契約を終了していて
キャンセルできなかったかもしれませんが、
友里の本を読まないにしても、この本がもう少し早く出ていたら、
そして読んで理解して
再開発ビル側の甘い誘いに引っかからなければ、
今のような悲惨な結果にはならなかったのではないでしょうか。

森ビルは既に原宿のショッピングモール再開発で、
テナントの誘致を着々とすすめていると聞きました。
何も友里は森ビルが憎い訳でも何でもありませんが、
六本木ヒルズ、交詢ビルの店が生き証人と言えるでしょう。
どだい奇を衒った流行りの箱物です。
賞味期限が直ぐ切れるのは、
肝心の森ビルなど再開発ビル側が
直ぐ次のプロジェクトを立ち上げるのですから簡単に予測できます。
例えば、「アークヒルズ」なんていう存在を
覚えている人が何人いるでしょうか。
サントリーホールにでも行かない限り、
思い出す人は少ないでしょう。
前から言っていますが、
食事好き、つまり店のコアとなる重要な客は、
再開発ビルという立地に何の必然性も感じないのです。
観光客ではないのですから。

それなのに、
バラ色の集客予想をちらつかされて判断力を鈍らされ、
出店に踏み切ってしまうのでしょうが、
再開発ビル側も商売ですからそこはうまく話をしてきます。
テナントで埋めて初めて成り立つのがデヴェロッパーだからです。

飲食店は立地も重要な要素ではありますが、
それが絶対ではないということは、
足の便が悪くても流行っている店がいくつも存在していることで
証明できます。
反対に立地のよい再開発ビルで、
客のいない店はいくらでもあります。
そろそろ再開発ビル、複合商業施設というもの自体の
賞味期限が終わりかけていると感じるこの頃です。