昔詠んだ本か雑誌で、「ビストロはフランスの居酒屋」のように紹介されていたと記憶しております。しかし、実際はワイン主体の店ではなく、料理にウェートを置いた料理店ではないでしょうか。イタリアンの「トラットリア」と同じで、気軽に入店できるフランス料理屋。ドレスコードを気にせず、一人客でも子供を連れての入店も可能な店。予算を気にしないだけに、高級食材や特級畑、一級格付けのワインを期待する店ではありません。
典型的なビストロ料理といいますと、「牛ロースとフライドポテト」、「タルタルステーキ」、「鴨のコンフィ」、「仔羊とクスクス」、「パテ」、「リエット」、「シュークルート」などが思い浮かびます。いわゆる田舎料理です。装丁のよいメニューはなく、黒板に雑然と書かれたその日のお勧めの料理が並び、テーブルはホールに可能な限り多く配置し、客が一杯で熱気ある店内。こんな情景を思い浮かぶのがビストロです。だからビストロは都心の繁華街や再開発ビルではなく、住宅街や裏路地が似合うと考えます。
自称していますが、この店を「ビストロ」と思って訪問すると失望するのが「ビストロ ブノワ」。パッとした店が入っていないラポルト・青山の最上階2フロアに位置し、私が日本を舐めきっていると断言した、料理人ではない「営利追求事業家」、アラン・デュカスの店であります。パリの老舗のビストロであった「ブノワ」を買収した勢いで、日本にも同じ店名の店を出してきました。銀座の「ベージュ」ほど前宣伝なくひっそりとオープンしたのですが、私の予想通り集客は苦しいようです。エレベータを降りるとそこはウェーティングバーとレセプション。ホールはワンフロア上です。なんで一々階段を使わなければいけないのか。ビストロになぜウェーティングスペースが必要なのか。そして次の驚きは客の少なさです。割と余裕のあるホール広さとテーブル配置なだけに、余計に悲惨であります。流暢な日本語を話す外人を雇っている理由も理解できません。メニューを見ると、コース料理が1万円以上、アラカルトも前菜が3千円以上、肉料理は5千円以上とそこらの高級フレンチより高いではありませんか。しかも、パスタやリゾットまで置いてあります。ビストロと名乗っていますが、コンセプト滅茶苦茶。ワインも一番安いもので6千円とその選択と値付けのセンスが悪すぎです。勿論典型的なビストロ料理などあるわけがなく、見た目だけの盛り合わせ前菜や牛、仔羊、豚、鳩などのメインも期待してはいけません。価格、料理、ポーション、客数と我々が「ビストロ」に求めるものが何もない「ビストロ ブノワ」。舞浜の「スプーン」と同じく成功するとは思えません。
「ブノワ」がビストロの負け組であるならば、勝ち組は高田馬場の「ラミティエ」でしょう。予約を取るのが困難なので、最近は足が遠のきましたが、グラフ社から出した拙著の編集担当も通い続ける連日満席のビストロであります。何が魅力かと言いますと、まずは価格。前菜とメインの2構成でいくつか食材によってプラス料金がありますが、消費税込みでわずか2100円。各皿に添えられる野菜も豊富でボリュームもたっぷり。高級食材はないですが、お約束のビストロ定番料理も数多く用意されています。低価格帯の店にありがちな限られた料理数ではなく、前菜、メインと選択肢はかなりのものです。勿論、手抜きのないしっかりした味付けの調理。ワインも高くても5千円までで値付けも安い。安くて量もあり、味も悪くはないでは、流行らない訳がありません。原価率が異常に高い、正に一般客に優しい店といえるでしょう。一般客ではなく、料理人サイドに軸足を置いている山本益博氏は、なんとこのラミティエのシェフに値上げのアドヴァイスをしたと誌面で自慢しておりました。裸の王様である本人は気がつかないようですが、客や読者に対する利敵行為の暴挙。読者あっての食べ歩き三昧生活のマスヒロ氏であるはずですが、彼は料理人や店経営者に食べさせてもらっていると勘違いしているようです。
ラミティエほど安くないですが料理に魅力を感じるのが西麻布の「ビストロ ド ラ シテ」です。姉妹店を含めて勝又氏、川崎氏、菊地氏など多くの有名シェフを輩出してきた30年以上続く老舗ビストロ。一昨年シェフが交代してからまた活気を取り戻してきました。サービスで出るリエットにはじまり、前菜ではパテやテリーヌ、ブーダンノワール、ブーダンブランなどの料理が2千円以内、メインは馬肉のタルタル、鴨のコンフィ、白金豚のシュークルートなど量もあるコッテリ料理が3千円前後です。そして私のお勧めはテット・ド・コション。豚の頭の各種部位を使った料理ですが、添えられたラヴィゴットソースとの相性は抜群でした。しかしもう一つのビストロお約束料理である牛ロース(3900円)は、質も含めてイマイチ。近所の麻布食堂の3千円の方がマシでした。ワインは最近流行のビオワインを中心に7千円前後のものが揃えてあります。以前はブルゴーニュの高額ワインが結構ありましたから、営業方針を変えたのでしょう。ランチはメインによって1800円から3800円までの3コース。前菜、メインともにプリフィクスですが、クオリティは夜とほとんど変わりません。土日のランチタイムのシャンパンブランチも含めて、この店のランチはお得です。
料理人や飲食店経営者サイドに立ち、ヨイショ記事連発で読者や一般客には背信行為の自称料理評論家、山本益博氏が絶賛するビストロが、蔵前の「ビストロ モンペリエ」です。生まれ育った下町に過剰な思い入れがあるのでしょうか、その地にあるだけで評価が不自然に高くなるマスヒロさん。彼が推奨する下町の店は、かなり割り引いて訪問しなければ落胆します。モンペリエのシェフはアピシウス出身と聞きますが、価格が違いますから料理はまったく別物。マスヒロ氏が絶賛の「鴨のコンフィとシュークルート」は、2400円とドラシテより安めですが内容もそれなりのもの。キャベツがウリとシェフが言っていますが、期待はずれでした。仔羊のローストも3千円以下で、塩だけは利いていますが質は価格そのもの。ウサギの腿のローストもソースのツメが緩く、一番高かった3400円の鳩のローストは頼まない方が良かったと後悔する出来でありました。厨房はシェフ一人、ホールも女性一人とスタッフが少ないので、前菜は野菜を添えておりますがパテやテリーヌ、生ハムと造り置きできるものが主体。メインもロースト、コンフィ、煮込みとその場では手間のかからないものしかありません。立地条件や雰囲気はラミティエと変わりがないのに、料理の完成度にかなりの差があります。シェフは話し好きの人懐こい方で、地元では人気でも、全国区、いや東京で傑出した料理を供する店ではないでしょう。自分の生活のために無理に「傑出店」を乱発するマスヒロさん。立地の妙で実力以上に評価されるでしょうが、無理に取り上げたため、経験豊富な食通が訪れたら通用するレベルでない事を晒すことになります。
もう一つ、立地の妙と安めの値付けで一時期ブレイクしたのが白金商店街の「ラビラント」です。当時は港区のチベットといわれた街場のひなびた商店街に、オープンカウンターのビストロに位置する店が出来た時は驚きました。前菜、メインと1〜2千円程度の値付けの種類の豊富なコッテリ料理に対し、ワインはブルゴーニュの高額ワインを揃えるミスマッチが立地の妙と重なって当初は人気でありました。料理の種類は多いですが、季節ごとの変化に乏しい定番料理のオンパレード。見た目ほど味はコテコテでないのが、かえって女性陣にも人気だったのかもしれませんが、丸ビルに支店を出してから少し風向きが変わりました。ビストロに位置する店が、都心の再開発ビルに出店する違和感。場末の商店街のビストロだからこその持ち味がなくなって、支店の営業は最初から苦しいようです。何度も書きますが、ビストロには、高額請求、好立地、高額内装、高級食材は似合わないのです。