グルメバトル-前代未聞の飲食店評価
著:友里征耶/J.C.オカザワ
\1,470 (税込)

シェフ、板長を斬る悪口雑言集(2)
著:友里征耶
\1,470 (税込)


シェフ、板長を斬る悪口雑言集
著:友里征耶
\1,470 (税込)


日刊ゲンダイ 連載コラム
   第7回  東京 有名天麩羅店めぐり

私は揚げ物系、特に天麩羅が大好きです。蕎麦屋の真っ黒な天麩羅から、客単価3万円の高額店までTPOに合わせて楽しんでおります。どのランクの店でもそれなりに美味しい。持論ですが、天麩羅はそこそこ誰でもおいしく仕上げられる調理だと私は思うのです。高額店のサイマキではなく、街場蕎麦屋のブラックタイガーも悪くはありません。高額鮨を食べ慣れて回転スシが食べられなくなった方はいるでしょうが、高額天麩羅に慣れても、街場蕎麦屋の天麩羅はそれほど苦にならないはず。逆に、天麩羅で傑出さを示すのは至難の技と言えます。食材を脱水して旨みを封じ込める調理だそうですが、そのため食材の質の差を出しにくい。よって客単価を稼ぎたい高額店では、油の違い、揚げ方の違いといった「能書き」で客を洗脳してきます。
高額天麩羅は大きく分けて「みかわ系」、「山の上系」、「天一系」、「京風」などに分れると思います。系統により揚げ方やサービススタイルが異なるので、自分にあった系統を見つける事が一番であります。
まずは山本益博氏はじめ
著名な文化人・業界人が絶賛の「みかわ系」の総本山、「みかわ茅場町店」。
自慢話のオンパレードというか傲岸不遜な語り口で読後感の悪い本を3年前に出した早乙女哲哉氏。
名人、天才と巷間言われているようですが、私に言わせれば「能書きの名人」なだけ。秒の単位で揚げ分けるような事を書いてありましたが、客詰め込んで一気に捌く営業スタイルですから、異なるタネを同時に鍋へ突っ込みます。秒どころかタネ毎の温度管理もしていません。よって揚げすぎて焦げ目の強い天麩羅がこの店の特徴です。当然海老やキスなどは旨みが飛んでしまっていますが、穴子だけはまずまず。何の事はない、穴子の揚げ加減をすべてのタネに適用しているだけだと最近悟った次第です。能書きの割に何も拘っていないではないか。ではなぜ業界人や文化人、山本益博氏たちが絶賛するのか。味がわからないだけと言えばそれまでですが、彼らはタネ自身の味ではなく、衣に惑わされているようです。確かに衣だけならば、この揚げ方だと美味しく感じるはずです。天麩羅職人は鮨職人と違って、同業他店へ食べに行かないようです。毎日油を嗅いでいますから、わざわざ外で揚げ物を食べる気にならないのでしょう。早乙女氏は本当に美味しい天麩羅を食べた事がないのではないか。よって名人と言われることに違和感を覚えない「井の中の蛙の職人」が出来上がったのです。たいしたタネ質でなくてお任せで1万5千円前後、刺身を食べたら2万円になりますから、雑然とした店構えと詰め込み過ぎの狭いカウンター、CP悪すぎです。

依然として人気がある「山の上系」。「山の上ホテル」から独立した店では、銀座の「近藤」、赤坂の「楽亭」、京橋の「深町」が有名です。その中で稼ぎ頭が「近藤」。新店ではカウンターが2つとかなりの大箱です。昼夜営業で夜は2回転する繁盛店。数日前の予約だからか、17時を指定されました。刺身の有無、ネタ数で1万5千円まで数コースがありますが、人気ほどの傑出さを感じません。小鉢や刺身のレベルは凡庸、「みかわ」と違って揚げ過ぎずタネの旨みは飛んでいませんが、やはり質がイマイチ。肉の薄い穴子は相変わらず臭みがありました。マスコミは野菜の良さを力説しますが私は疑問。ほとんどの客が追加で頼んでいるサツマイモは、焼き芋の方が絶対美味しい。連日の賑わいが不思議であります。
私が勧めたい店は「楽亭」。主人は老け込んで往年のキレを感じなくなったものの、今でも他店より上に感じるのはタネ質がよいからか。夫婦と弟子一人に抑えた固定費ならではの成せる業でしょう。刺身は追加で4千円、品数多いコースは1万2千円ほどと「みかわ」、「近藤」と大差ない価格でも、食後感はかなり違うはずです。油の交換をこれほど頻繁にする店はありません。原価率が他店より高いのがわかります。最後が京橋の「深町」。刺身だけではなく、ツマミとして豆腐蓉、ばくらい、ふなずし、白子などが用意され、価格も兄弟店より低めであり、油切りをしない点を除けば、まずまずの質の天麩羅を食する事が出来ます。
次は多店舗展開している「天一系」。その総本山である銀座本店は、メインのカウンターの他、お座敷カウンターが1階、地下と2フロアあるかなりの大箱であります。支配人の他男性スタッフが一人、女性スタッフもかなりいて、現役でない主人らしきお年寄りが店内を徘徊しているなどかなりの人件費。カウンターなのにサービス料を10%乗せても回収できないのか、タネ質はそれほどの物を感じません。知名度抜群、地の利もあり、接待、老夫婦、同伴と目的別の客で一杯です。天汁とオロシ、レモン、塩の他、この系列ではカレー粉を置いているのが特徴ですが、天麩羅自体はタネ質、揚げ方とやはり傑出したものを感じません。刺身なしのお任せで1万4〜5千円、油注ぎ足しはあっても全交換は見られず、黒ずんでいくのが横からでもわかりました。そして2階フロアに位置するプレステージ店が「天一山」。夜は客単価6万円と3倍以上の値付けの天麩羅コースを一日数組限定で、予約があるときだけ開ける料亭式天麩羅屋です。しかし、「天一」より厳選したとしても、3倍の質の食材が仕入れられるわけがなく、普通に美味しい天麩羅なだけ。絶対足を踏み入れてはいけない店であります。

東京の高額天麩羅で忘れてはならないのが日本橋の「はやし」です。「東京いい店うまい店」というお年寄り色ある評価本で5つ星の常連でした。しかし最近はまったく目立ちません。最近訪問した時は、我々を入れてわずか客は4人だけ。主人も影が薄くなったと感じました。集客の為のパフォーマンスのつもりなんでしょう、生きた海老を最初に見せ、最初は半生、次は強めに揚げ、最後は好みの揚げ方で供してくれます。サイマキの揚げ方に関して、店のポリシーがないことを開示しているようなもので私は賛同できません。旬を過ぎたようで、代替わりなどでテコ入れして勢いを取り戻してもらいたい。掻揚げを出さず最後はフリカケでご飯を食べさすスタイルも限界です。
「天一山」ほどではありませんが、客単価3万を超える店が銀座に2店あります。一つは「七丁目京星」。その名のとおり京風天麩羅です。京風の正式な定義を知りませんが、胡麻系の油を多用せず、衣が薄い天麩羅と言うことでしょう。一般にでるサイマキよりも一回り、二回り小さい海老を10尾前後出してくるのと、天汁ではなく塩だけで食べさせるのがこの店の特徴です。海老だけでなく、魚類、野菜類もよくこんな小さなものを探してきたかと感心するほど小振りなもの。海老の数が多いといっても小さすぎて食材自体の旨みを感じとることは難しい。品数稼ぎなのか、鶉卵や蒟蒻なども紛れ込んできますから驚きました。最後まで塩だけですから飽きも来るでしょう。京風なので穴子はないとのこと。これで一人3万円、あまりに高すぎで再訪は難しい。「東京いい店・・・」で同じく長年高評価でしたが、この小さいタネはやはり年寄り好みと言えるでしょう。
「京星」の長男がなぜか次男に店を譲って同じ銀座に出したのが「由松」です。スタイルはまったく「京星」と同じですが、卵を使っていないようで、衣は更にうすく、素揚げのような天麩羅です。付き出しにでる玉子豆腐の細切りは毎回変わらず、3回目では完全に飽きました。同じく3万円はかかる店ですが、海老の多さ、タネの小ささに加えて衣にかなり特徴がありますから、話のタネに一回は「京星」よりはいいかもしれません。
月曜の書き出しで述べたように、東京の高額天麩羅屋は店によってかなりの価格差がありますが、天麩羅自体そこそこどんなタネでも美味しく感じる調理法なので、不味いという店はありません。(「みかわ」系の焦げ過ぎにはNGですけど)
換言すれば、傑出さを出すのが難しい料理であります。支払い費用とタネ質のバランス、清潔感、雰囲気、油交換、主人の謙虚さなど総合的に考えれば、赤坂の「楽亭」が一番のお勧めです。

Copyright 2006 TOMOSATO YUYA all rights reserved