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第5回
「移転話」の甘い誘いに乗ると泣きを見ることになる |
「歴史は繰り返す」と言われますが、飲食店業界の辞書にはこの文言がないようです。この数年のグルメブームの中、安直な移店計画や分店出店計画の為か、泣きをみる飲食店が後を絶ちません。
「再開発ビルの店にうまいものなし」。当初からの友里の定説であります。汐留開発、丸ビルを中心にした丸の内再開発、六本木ヒルズ、日本橋再開発など三菱地所、三井不動産、森ビルなど大手デヴェロッパーの手による高層ビルをメインにした再開発プロジェクトが後を絶ちません。今後も、旧防衛庁跡の東京ミッドタウンプロジェクトなど大型物件が目白押しのようですが、それらの再開発には一つの目玉、つまり客寄せとして「有名飲食店」の誘致がつきものであります。
本来ならば、テナントとして入る会社や近辺の勤務者を対象にしたランチや廉価な夕食を供するべきものを、何を勘違いしたのか高額設定の鮨屋やフレンチ、懐石料理屋の誘致に力を入れているのが現状であります。都心の一等地に建てられた大手デヴェロッパーの手による高層ビル、賃料や保証金が安いわけがありません。飲食店経営では人件費に賃料、そして
仕入食材費が3大経費ですが、客の入りに関わらず発生するのが固定費に当たる人件費と賃料であります。新ビルに相応しい店構えを要求される為、指定された業者へ発注する内外装費用も半端ではないはず。マスコミに注目されますから見栄を張ってスタッフも増やさなければならないでしょう。勿論、坪単価自体が高い上に、見栄でスペースを広げた大箱店にしてしまい余計に出費がかさみます。移店前、もしくは本店とは、経費増大で経営環境が一変してしまいますから、客の食後感、つまりCPを同じレベルで維持できるはずがないのです。同じ価格に保つには、仕入れを抑えてクオリティを落とさなければならず、クオリティを保つには価格設定を大幅に上げなければなりません。地道な同業者に対して競争力を失ってしまうのですが、大手デヴェロッパーの「再開発ビル」という看板がそのデメリットを補って余りあると勘違いする料理人や経営者がいるのが不思議です。
閉店した六本木ヒルズの「日本料理 小山」。徳島料理「青柳」のフラグシップ店として出てきましたが、わずか2年も持たなかった。同じ高額店ゾーン「けやき坂」に位置する他の有名店も集客に頭を痛めているはずです。最近では、交詢ビルへ移転したフレンチの「オストラル」もしかり。移転しなければ、閉店という事態に追い込まれなかったと誰しも考えることでしょう。明日からは、移転した為に苦労している店の問題点、移店を勧めたプロデューサーに翻弄された料理人などに言及してみます。
鳴り物入りでオープンした六本木ヒルズ。日本を代表する高級和食店も出店を最後まで検討したと漏れ聞きますが、今にして考えれば突き進まなくてよかったと胸を撫で下ろしていることでしょう。
高層ビルに珍しがって押し寄せる「観光客」が来場者の主体ですから、高額な鮨屋(次郎)、懐石料理屋(小山)、フレンチ(パ マル)、イタリアン(イル ムリーノ、サドレル)、客単価3万円の中華(れい家菜)が苦戦するのは当然です。当の料理人や経営者と森ビル関係者だけが予想できなかったのでしょう。デヴェロッパーは土地買収や建設のノウハウはあるでしょうが、飲食店に関して詳しいとは思えません。若い担当スタッフにそれを望む事はできず、役員や管理職は典型的な接待・経費族ですからこれまた無理というもの。
そして森ビルよりもプアな計画で、誘致した飲食店を窮地に陥れているのが、三井不動産が手がけた銀座の交詢ビルです。
ビルの主要テナントはセレクトショップのバーニーズ。NYとは違って、銀座へ買い物に来る客は、確立されたブランドを好むものです。自分の哲学があるわけではなく、マスコミに造られた流行を追う見栄っ張りばかりです。誘蛾灯に誘い出されるが如く安易にエルメス、シャネルといった有名ブランドに群がる銀座客を、セレクトショップへ向かせるのは至難の技であります。銀座の大事な客層である同伴カップル、見栄っ張りのホステスがわざわざセレクトショップのブランドを選ぶでしょうか。かくして、交詢ビルのバーニーズも客が入らず、よって4階、5階の飲食店フロアは悲惨そのもの。ランチや夕食時でもフロアを歩くフリの客は皆無に近く、戦略なく集めた店への予約客だけではカバーできません。比較的小さな店のフロアである4階には、池袋のトンカツ屋「かつぜん」、碑文谷の街場寿司「逸喜優」、荻窪の韓国料理「南漢亭」、新橋の中華料理「趙楊」など、その地ではまずまず有名でも世間ではほとんど無名。有名店ひしめく銀座で勝負できるもではありません。やはり高額地代と高級内装などに対処する為に高額なコース料理を設定したからか、集客はオープンからコケたままです。
三不の担当者は何も考えていなかったのか。その気にさせられてホイホイでてきた料理人は何を考えていたのか。安直に価格だけ上げても、技量や営業ノウハウがないのですから、この結果は当然と言えます。まさに地方のお山の大将。このフロアでは、串揚げ「六覺燈」、創作フレンチ「ヨネムラ」、京都ダイニング「八た」、高額居酒屋「たらふくまんま」と関西や九州の店もひっぱってきて目先を変えていますが、その効果も期限が限られ、前途は明るいとはいえません。
では、交詢ビルの大箱店フロアの5階はどうかというと、オープン1年と2ヶ月で、4店あるなかで早くも脱落店が出てしまいました。同じ銀座の小さなビル地下でそれなりに流行っていたフレンチ「オストラル」は、豪華な内装と高額化というお決まりの戦略で勝負を賭けてきたのですが、昨年末で閉店に追い込まれたようです。交詢ビルのHPでは電話番号は削除していますが未だに店名などを載せているから笑えます。(1/21現在)
他の3店はどうかというと、中華の「赤坂璃宮」は出店前に既に賞味期限切れだったのかこれまた不振。すき焼きの「今半」もここでしか食べられない店ではなく、大阪の天麩羅屋「一宝」も力不足と、このビルには真の実力店が存在しない事がわかります。だいたい、中華が2店、フレンチ系が2店、和食が4店、揚げ物・焼物が4店とイタリアンはなく偏りすぎで、客単価1万円以上ばかりと戦略的におかしい。同じ三不が関与した再開発ビルでも、日本橋の「コレド」は価格の高い「サン パウ」以外はまずまず流行っているようですから、値付戦略は最重要といえます。
戦略なきデヴェロッパーの「甘い誘い」に、自分は名店の主人だと勘違い、舞い上がっての再開発ビル出店。しかし、残ったのは借金と客が居ない豪華な店だけではシャレにもなりません。私は声を大にして言いたい。デヴェロッパーの無責任な誘いに安易に乗ってはいけない。そして、勘違いさせられて後悔するな、と。
いい加減な「お誘い」は何もデヴェロッパーばかりではありません。本人もかなり勘違いしてしまっている、自称料理評論家の山本益博氏。彼は料理店ヨイショだけでなく、プロデュースをやっていることでも有名であります。代官山のゼクスなども手がけたと漏れ聞いていますが、成功例があるのかどうか。最近やらかしてしまった失敗例としては、銀座の「Ryo-ri
Genten」。元は青森・角館のエルブジ風創作和食の「一行樹」で、立地の悪さと料理の斬新さ(ただのエルブジの模倣)のミスマッチに過大評価されて一部で話題になった店でありました。エルブジ風和食は角館では珍しいでしょうが、本物和食が集まる銀座で存在感を出すには料理人の力量に限界があったようです。知識もないのにワインまでコンサルしたマスヒロさん。昼夜とも決して盛況ではない状態から、スポンサーであるゲンテンというバッグメーカーは元より、煽てられてその気になって上京した料理人までがマスヒロさんに翻弄されてしまったと言えるでしょう。私は声を大にして言いたい。料理人よ、自称料理評論家やフード・レストランジャーナリストなどのヨイショ一辺倒の似非グルメの評価を真に受けるな、と。