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日刊ゲンダイ 連載コラム
   第4回  「メニューがない店」のキャッチに釣られるな

最近「・・・がない店」といったキャッチを載せる料理店紹介雑誌をよく見かけます。「看板がない店」、「紹介がないと入れない店」、「主人の修行歴がない店」など一般客にとっては必ずしもあり難いものではなく、他店と差別化して目立ち、集客をはかりたいだけの浅知恵だと私は考えております。そのうち「料理人の居ない店」まで出没してくるかもしれません。そしてこの「メニューがない」という店が今注目されています。
「お任せ」というスタイルは和食の世界では以前からありましたが、それがイタリアンやフレンチにまで広がってきました。合理的な欧米で、コース料理の内容をまったく開示しない完全お任せでまともな店は、「エルブジ」以外はないでしょう。アラカルトに加えて「ムニュ(メニュー)」と言われるのが日本で言うところのコース料理ですが、料理構成や価格は詳細に明記されているはずです。日本でも、「ロオジエ」、「アピシウス」、「レカン」など有名グランメゾンは必ず詳細が明記されています。
しかし、居酒屋や割烹ではない高額和食では、その日に出すコース料理を開示しない店が一般的です。中には価格も提示しない店まであります。
「京味」のように原則1種のコースしかないが、価格が季節の食材によってぶれる店。京都の「千花」や「千ひろ」のように、異なる価格のコースに、器を除いて食材など大きな差を見出せない疑惑の店。「小室」のように事前に価格による違いを説明するのを真っ向から拒否し嫌ならキャンセルするかと開き直る店。諸外国に舐められる日本人の弱点である「曖昧さ」と「事なかれ主義」を巧みに突いた営業システムでありますが、この「一任料理」は、個々に料理を選ぶのが面倒な客以外には、店側にのみメリットをもたらします。
その日の市場で食材を選ぶから料理があらかじめ決められない。一番良い食材を選ぶと信じる客も居るでしょうが、お買い得なタネを仕入れているかもしれません。需給の関係で値が高くなった食材を避ける事もできます。予約主体の店ならば、歩留まりの問題を心配する事もなく仕込みも楽、と良いこと尽くめなのがこの「メニューがない」店のメリットです。そして「メニューがない」と、何か拘りのある店のように錯覚するキャッチとして、集客に利用してきたイタリアンやフレンチが登場してきたのですから、日本人はどこまで寛容なのでしょうか。
イタリアンでは「イル ギオットーネ マルノウチ」に「リストランテ アモーレ」、フレンチでは「レスプリ ミタニ」と無責任なフード・レストランジャーナリストたちが煽っている店を明日から取り上げてみたいと思います。

昨年11月に丸の内の「オアゾ」に京都から乗り込んできた「イル ギオットーネ」。京都では予約困難な人気イタリアンでありますが、東京では知名度はないと思っていました。しかし、オープン前後にTVや雑誌に大きく扱われたからか、今のところ順調なようです。しかし、この東京店の営業スタイルが私は納得できません。京都の本店では、アラカルトがあり、コースも料理内容が開示されています。しかし、丸の内店ではアラカルトはなく、7875円と10500円のコースは完全な「シェフお任せ」。TVによると、客それぞれに合わせた料理をその場で考えてコース仕立てにするオリジナルとのことでした。しかし、本店でやっていない事が東京で突然出来るものなのか。仕入れた食材に限りがあるわけですから、客毎に違った料理を考えだすことが本当に出来るのでしょうか。
結論から言わせていただくと、この「客に合わせて造るオリジナルコース」は極めて怪しい。ホールスタッフは、コース価格と嫌いな食材の有無だけを聞いて厨房へ行きますが、わずか数分後には戻ってメモを読みながら料理内容の説明に入ります。客の好みなどの調査はありません。厨房に伝わる情報は、人数と男女比率、そしてアバウトな年齢構成だけでしょう。わずか数分で、客毎にオリジナルな料理を考え出せるはずがないのです。恐らく、あらかじめ食材や調理法の異なった構成のコースをいくつか考えておき、隣接するテーブルとダブらないように割当てていると想像します。目に入る隣接の客とは違った料理が運ばれてくるわけですから、自分たちへのオリジナル料理と錯覚するでしょうが、実はいくつかのパターンの中の一つ。毎日、客毎に瞬時にオリジナル料理を考えだせる才能のある料理人が、人気店とは言え京都の一イタリアンで雇われの身で満足しているはずがありません。
料理は京野菜などを使った創作イタリアン。はっきり言えば、パスタも出すイタリア風洋食です。見た目とわかりやすい味で万人向けですが、本格的な地方料理を食べこんだ方には物足りなく感じるでしょう。自己顕示欲旺盛な笹島オーナーですが、そのプロフィールにイタリア修行が書かれていないことからも、彼のベースは関西風イタリアンだけだとわかります。
もう一つ、短気で個性的なシェフとして知られている澤口氏の店が六本木にある「リストランテ 
 アモーレ」。やはりメニューはなく、シェフと相談しながら料理を決めるとのフレコミですが、実際は用意されている食材やパスタが限られており、歩留まりの問題を避けるための仕入食材有効活用なだけのシステムである事が、入店直後にわかってしまいます。

メニューがなくシェフと相談して料理を決める六本木の「リストランテ アモーレ」。揚げ足を取るわけではありませんが、この店は「リストランテ」では絶対ない。オープンキチンのカウンター席が主体の「リストランテ」なんてあり得ません。シェフ以外はホールも含めてスタッフは2人と固定費抑えずぎで、コートは自分で掛けなければならず、グリッシーニもなければ、パンも要求するまで出てきません。テーブルでは皆同じ料理を頼まなければならず、大皿でシェアするスタイルで、純粋な「トラットリア」の形態なのですが、どうして見栄を張った店名にしたのでしょうか。
ポーションも含めて量は多めで限られた食材ながら自分の嗜好にあった場合は、しっかりした味付けでそれなりに楽しめる店ではありますが、ワインまでリストがないのですから使い勝手は悪い。好みのワイン品種を聞いて数本持ってきますが、絶対に個々の価格を言いません。ワインは、品種だけでなく、生産地域によってかなり違いがでますから、ワインに拘りのある人にはまったく向かない店でもあるわけです。以前はワイン込みで1万円少々でしたが、最近は1万円台後半になったとの噂も聞いています。
フレンチでメニューがない店として最近激しく雑誌に露出しているのが、恵比寿の「レスプリ ミタニ」です。昨年9月にオープンしてから何度も訪れたと宣伝する無責任なフードライターの煽りが気になりました。この店も、食材の有効活用を目的としてメニューを用意していないのでしょう。厨房にシェフ一人、ホールにもわずか一人の固定費倹約もさすがであります。料理は前菜と魚、肉の3構成になっているようで、ある程度保存できる肉は3種からチョイスができましたが、前菜、魚系は選べません。予約の人数によって余らないように仕入を調整しているのでしょう。
キャパは20名以上のはずですが、客が少なくても皿出しはかなり遅くストレスが溜まります。当然、調理はポワレやローストで、塩を利かせたシンプルなもの。肉料理ではあらかじめ仕込んでおけるコンフィもありました。限られた食材で、少ないスタッフでの限られた調理法。カウンター式を取り入れたイタリアンならまだわかりますが、ホール着席のフレンチでこの形態でいいものいなのか。料理は7千円前後のようですが、量がかなり少ないのでワインを頼むとCP感は良くありません。
私は訴えます。「メニューがない」というキャッチに釣られてはいけません。あくまで、店側の都合で仕入食材をセーヴしたいだけの営業方針を、響きのいいキャッチに置き換えているに過ぎない、一般客には使い勝手の悪い店というのが正体です。

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