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第3回
東京の高額ステーキ屋はなぜか店構えが貧弱でミスマッチ |
「今夜はステーキにしよう」と言えば、今でも「ご馳走」の響きを感じる方は多いでしょうか。輸入再開されたアメリカ牛をはじめオージービーフなど輸入牛の攻勢で、安いステーキ屋も出てきていますし、フレンチやイタリアンでは、和牛(肉専用種)の最高峰である「黒毛和牛」ではなく、その下の「褐毛和牛」より更に格下の「短角牛」という食材を、さも凄い牛だと勘違いさせるようにメニューに特記する店も見かけます。しかし私には「松坂牛」や「三田牛」といったブランドの響きはまだまだ魅力的であります。
最近は松坂、三田、近江の他、米沢、仙台、宮崎、長野など原産地ブランドが全国に乱立してしまった感がありますが、これらの産地ブランド牛は、実は元は同じだという事をご存知ない方がまだいらっしゃるようです。松坂牛や三田牛など原産地ブランド牛は、その地で繁殖されているわけではありません。但馬の仔牛を購入して肥育していると言われていますが、すべての需要をカバーできるわけではなく、仔牛の産地は宮崎や鹿児島が主体のはずです。原産地呼称で、地域や肥育の期間が厳密に決められている所もあるようですが、簡単に言うと各地のブランド牛は、出身地は別で住民票を変えたようなもの。血統などその個体差はあるにしても、わずかな肥育期間内で、気候など環境や肥育方法の違いでどれほどの差がでるものなのか。何しろ、最高の和牛は、「メス処女牛」の2歳半から3歳にかけてのものと言われていますので、肥育期間は知れています。
松坂牛、伊賀牛、神戸牛、三田牛などのブロック肉を見ただけで見分けがつくと言っている人も居ますが、私は信じられません。人間でも同じ両親から生まれ、同じ食生活をしてきた兄弟姉妹の骨格、体脂肪率が同じでないことが牛には当てはまらないとは思えないのです。また、「国産牛」というカテゴリー、主に廉価な焼肉屋などの店で見かけるものですが、これは前述の3種に無角牛を加えた「和牛」(食肉専用種)以外の日本で生まれ肥育された種と、外国種や輸入種でも3ヶ月以上国内で肥育された牛までをすべてくくったものです。あまり用途のない乳牛、白・黒のホルスタインのオスや海外産で日本にわずか3ヶ月滞在で「国産牛」ということです。
最近は肥育地に拘りをもたなくなってきたのか、実際は肥育地ではなく個体差問題だと気づいたからか、産地を限定しない高額ステーキ屋も出てきました。このシリーズでは、昔ながらの三田牛専門の「あら皮」、産地に拘らず市場で個体をみてから仕入れる「かわむら」、得体の知れない商標登録の「大田原牛」を扱う「大田原牛超」について述べてみたいと思います。
日本の高額ステーキ屋を代表するのが「あら皮」。所在する新橋3丁目のビルの地下には廉価そうなイタリアンや寿司屋などもあり、店構えや内装も一昔前の洋食屋といった雰囲気で、とても客単価が5万円を軽く超える店には見えません。
この店は「三田牛」専門です。4万5千円前後のコースは、魚貝系の前菜やサラダにメインとしてヒレかロースのステーキを選ぶもの。魚貝の前菜も、例えばホタテ貝にしても冬の寒鰤にしても質に拘ったもので、ステーキ屋の前菜としては充分のレベル。メインの肉は、塩胡椒だけを使って炭火で焼き上げたシンプルな調理です。ロースはサシが邪魔しない肉の旨みも充分なもの。鉄板焼のような半端に薄い部位ではありませんから、食感も含めて和牛の最高峰の旨さを堪能できます。旨い肉とはこんな味なのか、と私は初訪問時の感動が忘れられません。ヒレは2人分ほどの大きさのブロックで、よほどの大食漢で予算に余裕のある方以外、二人ではヒレとロースの両方を食する事ができないのが残念です。肉厚を1.5倍、2倍とオーダーできるオプションは、更に肉の旨さを感じることができますが、支払いも比例しますから覚悟が必要です。アラカルトで頼んでもよし、価格がわかるコースを頼むもよし、銀座のクラブでつまらない散財をするよりはるかに満足しますが、ワインは2万円以上のものしかなく、ここまで客単価を上げる必要があるのか、その戦略に疑問です。前菜、肉、ワインを堪能し、サービス料を加算したら、一人7万円は超えてしまいます。年末恒例の、最優秀牛フェアは、価格が倍化し、脂が多すぎてお勧めしません。
産地に拘らない高額ステーキ屋としては、銀座のこれまた小さなビルの奥1階にある「かわむら」。
8席ほどのカウンター席のみの店で、店構えでは高額店には見えません。この店の特徴は、産地に拘らない肉選びと、牛の部位を使った料理のオンパレード、そしてワインの持ち込みがタダというものです。牡蠣など魚貝も用意しているようですが、この店では思いっきり牛を堪能することをお勧めします。ステーキ以外で一番のお勧めは「レバ刺し」です。これほど新鮮で旨い物があったのか。巷の焼肉屋とは格が違い、また評判がいい「スタミナ苑」をも凌駕するもの。しかもこれがわずか一人前千円程度ですから、内臓好きには必食です。その他、ヒレ刺しも4千円と高いですが経験して損はありません。しかし、ハンバーグ(8千円)、タルタルステーキ(1万円)はグループでシェアしたとしてもCPがいいかどうか。おいしいですが、どちらもここまでの肉質を必要とする料理ではないと考えます。肉質が勝ちすぎてバランスがよくありません。
「かわむら」でステーキを食べるならヒレです。断面だけ見たならロースと間違えそうなもの。かなりの時間をかけて炭火で焼き上げるヒレのジューシーさを伴った旨さは、「あら皮」を上回るかもしれません。150グラムあたり1万8千円くらいですが、一食の価値は充分です。量や品数によりますが、持ち込みでワイン代をセーブし、カウンターなのにサービス料を払って一人3万円超。土産のカツサンド(8千円)もここまでの肉質は無駄というものでした。
一方、まったく過熱感のない高額ステーキ屋が麻布十番の「大田原牛超」です。大黒屋総本家という一法人が、自ら商標登録した「大田原牛」を全面に昨年オープンしてきました。ただの栃木牛だと思うのですが、味のわからない業界人、タレント、ライターを使ってTV、雑誌で宣伝しまくって「幻の和牛」のイメージを作っていますが、自身のHPで公開している仔牛の登録証明書には「雄」、「去勢」の文字があります。価格の安い「オスの仔牛」を買い付け、それを大田原市近辺で肥育、マスコミ操作と根拠のない高額値付けでブランドイメージを高める戦略です。業界人やタレント、ライターたちへの働きかけを差し引いても、その粗利は大変なものではないでしょうか。
しかし店に客が居ません。あれほどマスコミに出まくり、タレントや業界人が絶賛、あの美食の王様・来栖けい氏も取り込んだ「BMSが12点満点」(サシの入り具合の基準)という「能書き」にも騙される客は少ないということです。
最高10万円(最近20万円を出したよう)まであるステーキはわずか180グラム程度で、外観は鉄板焼と同じく肉厚は薄く皿には脂がかなりにじんでいます。フライパンのようなもので焼いているのでしょう。強い炭火では耐えられない薄さです。しかも、過剰過ぎるサシの脂で肉の旨みをまったく感じず、柔らかすぎて歯ごたえなど食感も良くない。ニンニク醤油、カラシ、山葵を用意しているのは、塩胡椒だけでは無理だと店側が自覚している証左と考えます。「あら皮」や「かわむら」より倍近い価格設定ですが真の肉質は劣り、焼く技術はそこらのホテルの鉄板焼よりも劣る。化学調味料入れすぎのコンソメ、牛脂を入れたガーリックライスなどどれも最悪。運営会社や店のHPも田舎臭く、中華のような垢抜けない店看板と店構えにもまったくセンスを感じません。栃木の会社が、味や価値のわからない地方出身のタレントや業界人、ライターを巧みに能書きと高価格設定で洗脳して宣伝しただけの似非高級ステーキ屋と言っても過言ではないでしょう。怖いもの見たさはあるかもしれませんが、足を踏み入れてはいけない店であります。