グルメバトル-前代未聞の飲食店評価
著:友里征耶/J.C.オカザワ
\1,470 (税込)

シェフ、板長を斬る悪口雑言集(2)
著:友里征耶
\1,470 (税込)


シェフ、板長を斬る悪口雑言集
著:友里征耶
\1,470 (税込)


日刊ゲンダイ 連載コラム
   第1回 東京のグランメゾンについて

フレンチでいうところの「グランメゾン」は、どのように定義されているのでしょうか。「高価格」、 「豪華な内外装に代表される非日常的な世界」、「質の良い接客」、「おいしい料理」は必須でありましょう。勿論、そこへ行くというだけで知り合いから羨ましがられる「知名度」と「ブランド力」も当然。ある程度の「キャパ」もなければ押し出しも悪いでしょう。そして昨日今日のポッと出ではない「歴史」も必要なのです。
しかし、最近のマスコミは、新興勢力というか、勢いや豪華さ、そして高額だけですぐさまこの称号を与えてしまっているように感じられ、私は疑問に思っております。

尻尾を振らなかったため山本益博氏には疎んじられているようですが、もう一人の大御所、犬養裕美子氏をはじめ、大方のフードライターや業界人が大絶賛する南青山の「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」。成澤氏がオーナーシェフと言われている店は、外観、内装に限らず、厨房施設に至るまで豪華絢爛。マダムをはじめホールスタッフ、厨房スタッフの陣容も過剰と思われるほど固定費をかけているフレンチであります。しかし、友里流に定義させていただくと、この店は「グランメゾン」ではない。他の有名店でも「オテル ドゥ ミクニ」や「レストラン ひらまつ」も同じく定義外としております。

歴史が足りない、と揚げ足をとるような野暮な判断ではありません。私は、「グランメゾン」はオーナーシェフの店であってはならないと考えるのです。政教分離ではないですが、経営側(資本)と料理人(執行側)がしっかり分離していること。
パリの「タイユヴァン」など海外の有名店を持ち出すまでもなく、長い年月「グランメゾン」として君臨するには、料理人(シェフ)の交代、はっきり言えば「使い捨て」が必要だということです。

時が経つなかで客の嗜好の変化、シェフの才能の衰え、創造力の渇枯などのリスクに対応するには、シェフはオーナーであっては駄目なのです。時代に合わせて、また評判や集客、採算を考えて効率的にシェフを交代させていくことが、長く「グランメゾン」として生き残る術だと私は考えます。

そしてもう一つ。これは土地が高い日本では難しいことですが、「グランメゾン」はやっぱり1階から入りたい。地下への階段や階上へのエレベーターを使って入店するのはイマイチ貧弱と思うのですが、これを厳密に当てはめてしまうと、東京のグランメゾンは数店しかなくなってしまいます。 銀座の「ロオジエ」の名声をここまで高めた先代シェフのボリーさんは、この1階にこだわり、移転の際に、ホールは2階ですがなんとか入り口は1階になるように尽力したと聞きました。

銀座の「ロオジエ」の外観はまさに「グランメゾン」。モダンで豪華な外観は、初めての客にかなりのインパクトを与えます。移転前は昔の資生堂パーラービルの確か7階と8階に位置していた「ロオジエ」。移転に際し、内外装以外にも料理のコンセプトも変えて瞬く間にブレイクしてしまいました。

シェフの腕も変わってしまったかと思うほど、支払いに対する食後感(CP)が良くなったのは、オーナーである資生堂の経営方針の変更でしょう。同業者も認めていますが、ロオジエの料理の原価率はかなり高いとのこと。料理価格は他の高額グランメゾンと同じですが、採算をあまり考えず食材の質を高め、手間隙もかけられる訳ですから、早々他店が真似できる料理ではありません。しかも、かなりの権限を与えられたボリーさんの報酬も半端でなかったようです。
食材とシェフを高い水準に持っていくと、次にグランメゾンで必要なのはワインです。ロオジエは再オープンに際して、老舗であった、「アピシウス」から当時若手として、コンクールで活躍していた中本氏をシェフソムリエとして引き抜きました。以前から保有していた古めのワインを適度な価格で提供する方針と、中本氏の知名度と融通の利くサービスのおかげでワイン好きにも好評な店となったのです。グランメゾンでは、ワインの値付けは安くなくてはなりません。絶対価格ではなく、市場価格などとの比較による相対価格に値ごろ感があり、個人では所有できないような希少なワインをストックしている「非日常感」も必要なのです。ホールスタッフも他店からかなり引き抜いてきたようで、フレンドリー過ぎる対応は賛否両論あるようですが、レベルは高い。

銀座のグランメゾンにはミキモトビル地下の「レカン」もあります。「シェ イノ」の井上シェフ、「ヴァンサン」の城シェフ、「レ・ディタン・ザ・トトキ」の十時シェフと有名シェフを輩出してきた歴史ある名店でありますが、いかんせん、ビル地下という立地のためか、ホールに圧迫感があり、現在のシェフもなぜかマスコミに注目されないようで、人気の点ではかなり溝を空けられました。
また、古くて良いワインを揃えていたのが有楽町の「アピシウス」であります。今は六本木ヒルズに勘違いして独立してしまった高橋シェフが最も脂が乗っていた時期でしょうか、フランスの有名3つ星シェフを呼んでのコラボを開くなど当時は今の「ロオジエ」のような勢いと輝きがありました。「レカン」も「アピシウス」も、シェフが変わっても料理の質が落ちたわけではないのですが、営業方針が異なるロオジエの出現で、埋没気味なのが私には残念であります。

なんといっても「非日常性」を一番感じさせてくれる店は、西麻布の「ザ・ジョージアン・クラブ」でしょう。フレンチでなぜジョージアンなのかといった野暮は言いませんが、この建屋、外観、内装はまったく現実的ではありません。近隣からまったく浮きまくっているこの建屋は、オーナーがイギリスからわざわざ調達した建材、家具で造られているそうです。1階から入り、地下のホールへ降りる階段、高い天井、照明、暖炉などまったく他店の追随を許さない非日常性、悪く言えばある意味オーナーの自己満足にも思えるのですが、このゴージャス感がオバサマ族には人気のようです。あの叶姉妹がドンぴしゃり合う、ロオジエとは対極に位置する内外装であります。
スタッフの船乗りのような夏衣装もよく照れなく着込めるといつも感心しますが、話のタネに一度は訪問すべき一見の価値のあるグランメゾンといえるでしょう。

10年前に出現したときは、連日閑古鳥。無茶苦茶安く値付けたレアワインを目当てにワイン好きには知られていましたが、ブレイクするのに2〜3年我慢しなければならなかったのは、外観や内装の割に、料理にあまり魅力を感じるものがなかったからでしょうか。あまりに圧倒される雰囲気の中、料理でより客を圧倒することはなかなか難しい。シェフはある意味ネガティヴなハンデを与えられてしまったようなもので、現在2代目の久高シェフも苦労しているのではないでしょうか。雰囲気でケチつけられないので、料理が標的になりやすい。結構、料理に不満を示す人が私の周りにも存在します。確かにロオジエほど抜きん出ている料理ではないのは事実でありますが、悪いというレベルでもないはず。ただ、今のシェフになってからもかなりの年数が経ちます。店側、シェフの両者も環境の変化が必要になってきていると私は以前から考えておりました。
グランメゾンの利用法とはどんなものでしょうか。
夫婦の記念日、恋人同士のクリスマス、業界人のゲット用勝負店、オッサンとお水カップルの同伴用、など用途は多いですが、そこにはあまり料理本体だけの目的でくる客が少ないように感じます。グランメゾンは、それほど出色の料理を提供しなくても、そこそこの料理さえあれば、色々な使い道があり、なんとか存在することが出来るのかもしれません。
私はもう10年以上行っていませんが、あのソニービルの地下の「マキシム」、そして芝公園の「クレッセント」が、未だに営業を続け存在しているという事実から、グランメゾンは料理だけでないということがわかると思います。

Copyright 2006 TOMOSATO YUYA all rights reserved